康平とアンドリュー、リラの家族は、そんな平凡な願いを叶えるために何年も闘ってきました。
日本人の康平とアメリカ人のアンドリューは2015年にアメリカで結婚していますが、日本では同性婚ができないため配偶者としての在留資格が出ません。 日本で暮らし始めて10年以上経つ今でも、仕事で在留資格を維持しなければアンドリューは康平とリラと日本で暮らし続けることができません。
就労の状況にかかわらず、家族と一緒に暮らすための在留資格として「定住者」への変更を申請しましたが、5回にわたり拒否され続けました。
同性だからという理由で結婚が認められないばかりか、家族と平穏な生活を送るという、人として当然の願いさえも叶えられないのでしょうか?
2020年、康平とアンドリューは子犬のリラを家族の一員として迎え入れました。 訴訟の真っ只中、犬好きの二人がずっと夢見てきた暮らしも簡単な決断ではありませんでしたが、それでも自分たち家族の未来を信じて新たな一歩を踏み出しました。
日本ではまだ同性婚が認められていません。 しかしながら、同性カップルの権利が完全に無視されているわけではありません。 たとえばアメリカ人とイギリス人など、同性婚が認められている国の国籍を持った同性婚カップルは片方が仕事や学校などで在留資格を取得すれば、パートナーにも「特定活動」という在留資格が認められます。
同性カップルの婚姻関係を認めるという前例はすでに存在しているのです。 この裁判では、康平とアンドリューの関係性も同じように認められるべきだと主張しています。
日本では「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない」という内容の判決が1978年に最高裁判所から出されました(マクリーン事件)。 つまり在留資格を申請する段階では基本的人権が考慮されない場合があるということです。
家族と一緒に暮らすということが基本的な人権であるからこそ、国際婚のパートナーには「日本人の配偶者等」の在留資格が発行されるわけです。 康平とアンドリューが置かれているのは、まさにこの基本的人権が無視された状況です。
この裁判では、人として生まれながらに持っているはずの権利は、国や入管の都合で変えられるものではないと主張しています。
もちろん、日本で同性婚が認められればこの訴訟を含め、多くの問題が解決します。 しかし、この訴訟のもう一つの問題である「外国人に対する差別」は取り残されてしまいます。
また、同性婚制度を実現するには法整備が必要となるため、時間がかかります。 その間にも多くの人たちが康平とアンドリューのように理不尽な対応を受け続けることになります。
「家族と一緒に暮らす」という基本的人権を尊重することは、難しいことではないはずです。 婚姻関係にある二人の関係性を否定するという入管の非人道的な対応を改めるだけで、すぐに救われる人たちがいます。
結果を一言で表すと「実質勝訴」という内容になりました。 求めていた「定住者」の在留資格は認められなかったため形式上は敗訴だけど、「特定活動」の在留資格は認められるべきだったと判断されたという点で実質的には勝訴と言える、ということです。
日本人と婚姻関係にある外国人同性パートナーに「その関係性に基づいて在留資格を与えるべきだった」と判断されたこと、そして「そうでない入管の扱いが憲法14条の趣旨に反する」とまで裁判所が言及したことは、とても重要な意味を持ちます。 国際同性カップルにとって確実な前進となりました。
この訴訟ではアンドリューには定住者の在留資格が与えられるべきだと主張してきました。
家族と一緒に暮らすというのは一時的な「活動」ではなく、その人の生活の基盤になることだからです。
今回の判決では、アンドリューの在留期間や康平との同居期間の日数から、日本への定着が十分ではないと判断されました。 「特定活動」の付与に関しては人道上配慮の必要性や憲法14条に触れられているにもかかわらず、「定住者」の在留資格が認められないことは違法ではないという判断は、同性カップルとして強いられてきた困難、さらには二人の関係性が軽視されていると言わざるを得ません。
一方で、「平成25年の通知」によって外国籍同士の同性パートナーに与えられてきた「特定活動」の在留資格はアンドリューにも認めらるべきだったと判断されました。
外国籍同士の同性カップルと比べて、日本国籍者と外国籍者のカップルである康平とアンドリューが差別されるのは違法である、というのが理由です。
これは異性カップルの取り扱いとの比較ではなく、あくまで「同性カップル」同士の比較という限定的な視点から導かれた結論です。
本判決は日本国籍者と外国籍者の同性カップルが安定して日本に在留する道を開くもので、大きな意義があります。
しかしながら、その判断基準には同性カップルへの理解不足が顕著に表れる結果となりました。
康平とアンドリューの訴えの根底にあるのは「自分たちは異性カップルと何も違わない。 平等に扱ってほしい。」という想いです。
この訴訟はアンドリューの在留資格問題だけではなく「日本人である康平の人権問題でもある」ということを明確にするため、康平も原告として国家賠償を求めていました。
しかし今回の判決では、在留資格を認めなかったことが「人道的に問題だったか」ではなく「入管のルールに反していなかったか」という基準で検証されています。
「定住者」のみならず「特定活動」の在留資格さえ認めなかった入管の対応については、憲法14条「法の下の平等」を根拠に違法だとしつつも、当時の入管の理解では「平成25年の通知」は日本国籍者の同性パートナーには射程が及ばないとされていたため、過失はないとしました。
このようなあからさまなダブルスタンダードによる判断は、国による誤った判断や人権侵害に苦しむ人たちへの司法による救済の道を閉ざすものであり、許されるべきではありません。
まずは今回の判決をもって入管が実際に特定活動の在留資格を付与するかが焦点です。
「入管、平成25年の通知」にかわる「新たな通知」を出すなどして、日本国籍者と外国籍者の同性カップルが安定して日本で暮らすことができるように取扱いを変更することが求められます。
実際にアンドリューに特定活動の在留資格が与えられた場合、今後は同性婚が認められている国の国籍者で日本人と婚姻関係にある人であれば、同様に在留資格か与えられることになるはずです。
地裁判決では、「特定活動」の在留資格が付与される外国籍同士の同性カップルと比べて、日本国籍者と外国籍者のカップルである康平さんとアンドリューさんが差別されるのは違法である、という判断を出しました。
異性カップルの取り扱いとの差異についてはまったく論じることなく、あくまで「同性カップル同士の比較」という限定的な視点から導かれた結論です。
これに対して、高裁判決では、異性カップルと同性カップルの比較検討について「憲法14条の定める法の下の平等に反するかどうかは問題となり得る」としたところまでは小さな前進でした。
また、外国籍同士の同性カップルと比べて取り扱いの差異があるのは「合理的な理由を見いだすのは困難である」として地裁判決をさらに一般化した判断になっています。
異性カップルと同性カップルの取り扱いの差異が「憲法14条(平等原則)」に反するかどうかは問題となり得る、としたところまでは前進ですが、結論として「問題なし」という不当な判断でした。その理由が、弁護団も「なにを言ってるのかわからない」と指摘した以下の文章です。
「同性間の婚姻について、男女間に成立する婚姻関係と同等の地位が社会生活上確立しているといえるほどの実態が、本件不許可処分等がされた当時から存在していたとまでは認められない」
その上、その正当化のしかたがびっくり仰天の「LGBT理解増進法」でした。「同性間の婚姻の地位が社会生活上確立しているほどの実態が存在していたとは認められない」だからようやく「LGBT理解増進法」制定されたんだよね、というロジック。目が点。
これから「上告提起」をして「上告理由書」を提出します。その後「音沙汰がない」のが「便りのないのは良い便り」。連絡がないこと=きちんと審理してもらえてる、ということのようです。
最高裁は、通常「書面審理」ですが、高裁の結論を変更する場合には「弁論」というのが行なわれるとのこと。
つまり目指すところは「最高裁での弁論」!
引き続き応援をよろしくお願いします!
世論は裁判の判決に大きな影響を与えることができます。裁判官や被告(国や入管)に「私たちは衆目してるよ!公正な判決を!」というメッセージを送りましょう!
一審の第2回から第9回期日の約2年間は「準備書面」という形で、原告と被告の言い分を書類上でまとめ上げていく工程に費やされました。
本人尋問では原告である康平とアンドリューが法廷に立ち、家族として日本で暮らす権利を訴えました。
傍聴に行くだけで何か効果があるのかな?と感じる方もいるかもしれません。
大きなちからがあります!
傍聴席がいっぱいになるということは社会の関心の高さの表れです。 裁判官や被告(国や入管)に「私たちは注目してるよ!公正な判決を待ってるよ!」というメッセージになります。
この訴訟には2つの請求が含まれています。
1つはアンドリューが原告として「定住者」への在留資格変更を求めるものです。 もう1つは「家族形成と維持の自由を奪われ精神的苦痛を被った」として国家賠償を求めていて、康平とアンドリューの二人が原告となっています。
国家賠償と言うとお金の問題に聞こえるかもしれませんが、国や入管の対応がアンドリューだけでなく康平の人権をも侵害していることを訴えています。
結婚しているパートナーが取得できる在留資格は主に3つあります。 「日本人の配偶者等」と「定住者」は日本人と家族関係にあったり日本に生活基盤がある人、「特定活動」は一時的な滞在が前提となっている人に与えられる在留資格です。
「日本人の配偶者等」
日本人の配偶者(夫又は妻)、実子、特別養子の在留資格。 実は日本人の配偶者であればだれでももらえるわけではなく、審査で認められないこともあります(年齢差が大きい、交際期間が短い、収入が少ない、出会い系サイトであっているなど)。 実体を伴った婚姻が3年以上継続し、かつ、引き続き1年以上日本に在留していれば永住権申請ができます。
「定住者」
法務大臣が人道上その他特別な理由を考慮したうえで個別に指定した外国人に日本の居住を認める在留資格。 例えば日系人や難民、日本人の配偶者と死別・離別した人など。 この在留資格で5年以上日本に在留していれば永住権申請ができます。 アンドリューにも、この「定住者」の在留資格が与えられるべきだと主張しています。
「特定活動」
どの在留資格にも該当しない活動のために、法務大臣が個々の外国人について特に活動を指定する在留資格。 例えば外交官の家事使用人、ワーキングホリデー、インターンシップ、アマチュアスポーツ選手など。 外国籍同士の同性カップルは双方の本国で同性婚が有効で、いずれかがビジネス分野などの在留資格を持つ場合、パートナーに「特定活動」の在留資格が与えられます。 永住権を申請するには10年以上日本に在留しなければなりません。
外国籍の同性カップルが双方の国で有効な同性婚をしていて、2人のうち片方に日本での在留資格がある場合、その配偶者については人道的観点から配慮し、在留資格「特定活動」により在留を認める、という通知が平成25年(2013年)に法務省入国管理局(当時)の入国在留課長により出されました。 これにより入管は外国籍同士の同性パートナーには在留資格を認めてきましたが、日本国籍者の同性パートナーについては「射程外」とし、一律に在留資格を付与しない運用を行ってきました。
日本における在留外国人の政治活動の自由と在留許可をめぐる裁判。 1978年に最高裁が「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない」としました。 外国人在留制度を定める入管法は「法律」であり、「憲法」や「条約」の下位規範です。 しかしこの判示を理由に、外国人に限っては入管法が憲法や条約に優先するかのように扱われ、40年以上が経った今も外国人の人権保障に大きな影を落とし続けています。
同性婚の実現に向けてもたくさんの仲間が裁判所で闘っています。 「結婚の自由をすべての人に」訴訟は札幌、東京、名古屋、大阪、福岡で行われています。 ぜひ近くの裁判を見に行ったり、情報をシェアしたりして応援しましょう!
東京地裁の判決では、アンドリューには「特定活動」の在留資格が与えられるべきだという判断が示されました。 正式にアンドリューに在留資格が与えられれば、今後は他の同性カップルにも同じ対応が求められるため、入管は運用を変える必要が出てきます。 国際婚の同性カップルが「家族である」という理由で在留資格が取得できるようになる未来に向けて道を開く結果になりました。